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「ワタクシめのつまらない話でゴザイマスヨ。お聞きにナリマス?」 [文]

駄文。
視点がクラウン・クラウンなので一人称など色々とアレです。
かなり素の状態?
まぁ、何かの参考になれば…とか何とかで引っ張り出してみました。
本音を言えばそろそろ下書きから出てけ、だったり。

ちなみに書いた日付けは去年の8月。これまたえらく眠らせていたものです…(汗)。
なので季節感はまるっと無視でお願いします。
すごくどうでもいいのですが、ボールジャグリングの本を見直したら臨時収入が(笑)。へそくってたらしいです。



<< 忘れ物の赤 >>

何かはわからない。
というよりは夢を思い出そうとするかのようにおぼろげで、思い出す先から指の間からするすると抜け落ちていく感じ。
どうやらそんなものがオレにはあるらしい。
時々、ごくまれにだけれどそんな存在が頭をよぎる。
赤い…赤い、何か。

***

くるくると順番を変えながら宙を飛んでいたうち、赤いボールがオレの手から離れてぽてん、と地面に落ちた。
一定距離をおいて周囲を半月状に囲んでいる子供たちの中から「あっ」という小さな声が聞こえる。
スリーボールのシャワーごときで落とすなんてなー…今日は集中力欠いてんのかな、オレ。
そう思いながら他の残り二つのボール―青と黄色だ―を手におさめ、落っこちた赤いボールを大仰に腰を折って見つめてみせる。

そう、『みせる』。

現在十九才のオレは鮮やかなシアンのサイドテールにトップハムハット。短い気取ったベストと派手な柄タイにぶかっとしたズボン、そして普通の靴の二倍はあろうかと言うドタ靴。白塗りの頬には王冠のペイント、白手袋。
このちぐはぐな格好で察しが付く通り、お仕事はクラウン。
「ピエロ」とか一般に呼ばれてるけど厳密にはそうじゃない。
「ピエロ」は主に舞台上が仕事の場。劇の幕間なんかに使われるのがそう呼ばれる。一方「クラウン」は場所を選ばずどこででも単体で芸を見せる。あー、まーたまに他の見せもんと組んだりもするけど。
今回は商店街の賑やかしとして仕事が入った。
ま、そうでもない限り独学で若手のオレなんかにそうそう仕事は回ってきやしない。

じーっと地面に落ちたボールを見る。そして腰を折ったまま子供たちの方を向く。
期待に満ちた顔と、よくわかっていない顔が半々か。
もう一度じーっとボールを見つめてから子供たちの方を見て、手袋をはめた手でちょいちょい、と足元のボールを指差してみせる。
子供の一人が走り寄ってボールを拾おうとした隙にひょいとしゃがんで自分でボールを拾い、そ知らぬ顔でまた三つのボールを宙へ投げ上げた。

***

「あーいってぇ…。」

ちょっと意地悪してやったクソガキに蹴られた膝下が微妙に痛い。
商売道具の色々入ったトランクを引っさげて一旦どっかの店の裏側に避難した。
この姿を晒してる限り延々と追い掛け回されるのは仕事上どうしようもない。見られてナンボの世界だ。
しばらく様子をうかがい、撒いたと確信してからトランクの中身とポケットの大量に付いたヒップバッグをチェックする。
オレはピン芸人だからマジックもジャグリングもバルーンも一人でこなす。
問題はしばしば盗難が発生するコト。一人で荷物番とショーの同時進行はなかなかに難しい。
膨らませてないバルーンの一本や二本は単価が安いからいいんだが、この前はボール一個盗まれたっけな。
非消耗品は勘弁しろ。
ブツブツ言いながらトランクを漁っていると、背後から声がかかった。

「王冠の道化師、腕落ちたぁ?」
「落ちたぁ?」

語尾が復唱されるってことはアイツらか。
振り向くと、ふわふわしたワンピースの双子の少女がお互いにつかまってクスクス笑い合っている。
アン=リムとアン=レニ。
普通の子供の顔してこれでも同業者だ。組合に入ってるから、完全にバックのないストリートメインのオレとはたまの仕事のブッキングくらいでしか会わない。
けども仲は…まぁ業界の頭の石化したヤツらよりは悪くない。

「落ちねぇよ。」

憮然と答えると、

「でもシャワー失敗。」
「しっぱーい。」

ナニが楽しいのかケラケラ笑う。

「クラウン・クラウン、シャワーってこうやるんだよ?」
「やるんだよ。」

あっという間にオレのトランクの中から六つのボールを取り出し、二人して宙に同じボールの軌跡を描き出す。
速さは並大抵のものじゃない。
さすがは業界の有名双子。危なげなんて全くない。
これもオベンキョウ。立ちっぱなしだったオレはしゃがんで見物する。
横並びのシャワーがツイン・キャリーに変わり、そこからカスケードのパッシングに移行する。
ふと六個の内の一つが消えた。

***

ボールのカラーは赤、黄、青、緑、白、黒だった。
その中から目立つ赤が取り去られている。ヤツらの小さな手に二つでは隠し切れないサイズのボールのはずだから、どっちかが持ったままというのは有り得ない。
スティールして落としたのか、と地面を見るが落ちてもいない。

「クスクス…これね、新技。」
「新技。」

「さあ赤はどぉこ?」
「どこー?」

消えた赤。

どこかへいってしまった赤。

何かを思い出しそうになる。
高速で移動する五つのボールに目は吸い寄せられたまま、頭の中は赤いボールで埋め尽くされる。
オレは何を忘れているんだっけ?
赤の隙間にちらりと動く黒い影が見えたような気がした。
ちょっと待てよ、おま…
その瞬間、顔に鈍い衝撃が連続で来た。
顔を押さえて足元を見ると、赤も含めた六つのボールが散らばって落ちている。クスクスという笑い声がすぐ近くで響く。

「クラウン・クラウン、油断しすぎー。」
「しすぎー。」

ひょいと外されたトップハムハットを一人が、その下のシアンのウィッグをもう一人がかぶって、ショーの後のように優雅なお辞儀をした。

***

「初めて見たけど、クラウン・クラウンは意外な髪の色なのね。」
「のね。」

その後さんざ追っかけ回してどうにか帽子とウィッグを取り返し身づくろいを済ませると、トランクを持ち上げた。
何かもやもやすっからもう一仕事行ってこよう。

「ついてくんなよ。」

「あら、子供はクラウンが大好きなのよ。知らないの?」
「知らないの?」

クスクス笑いが二人分。
こいつらオレのショーを見るつもりか。
横を歩く双子に目を落とすとさっきの赤が少しだけ蘇る。

「忘れモンしてる気分だな…。」

「仕事道具は返したわよ。」
「返したわよ。」

「「これ以外。」」

珍しくハモった二人の手に、いつの間に抜いたのかオレのショーの要、ディアボロ用のちいさなコマが一つずつ乗っていた。
表通りまであと三歩。
「クラウン姿の間は目立つ場所で口を利かない」がモットーのオレは叫ぶわけにもいかず、ドタ靴で先にすたすたと表通りに出てしまった双子を追いかけた。

***

結局赤の向こうの黒い影は忘れることにした。
思い出そうにも今回もどうやら思い出せそうにない。というよりそんなヒマと余裕がない。
最前列に双子が座り込み、オレのショーを今か今かと待ち構えているから。

トランクからスケッチブックを取り出してページをめくる。
『The show is OPEN.』
そう書かれたページを開いて見せながら仰々しくお辞儀をして回ると、期待の拍手が沸き起こった。


<END>

●誕生した当初からC.Cにはちょっとした仕掛けがあったのですが(そのせいで今までこの文はお蔵に…)、ビャッコへの飼い直しでも何とか辻褄が合った…むしろ無理して合わせた?…ため多少直しただけでお披露目とあいなりました。
リムとレニはこの頃からいたのですよ。脳内に。結局飼えていませんがー!
双子…orz
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