「にのまえのおはなし。」「オマエ?別じ―もがっ!」「にのまえの!」 [文]
また駄文です。
とはいえ、ここしばらくわが子と関係を持ってくださった方を強制的に駄文に放り込んで晒すという無慈悲な行いをしていたので、以前より危機感や葛藤はありません。
…堕落するとこうなるんです。
擬人化なのはいうまでもありません。
ショタにのまえ/二位(紫ポフ)がまぁ一応中心です。
設定上は「一」と書きますが、文中での基本表記は「にのまえ」です。
実験とかあります。ちょっくら(?)人死にが出てます。暗いです。読みにくいです。
覚悟をお決めになりましたら…どうぞ。
無理そうなら回れ進め。
<<ひとり・ふたり・いっぱい…ひとり>>
にのまえ。
にのまえはにのまえになるまでぜろよんはちだったの。
にのまえがにのまえになったのはにーがでてきたからなんだって。
にーがいなかったらにのまえはまだぜろよんはち。
***
「一(にのまえ)、二位(にい)を出してちょうだい。」
実験室で若い女性の研究員が手鏡を差し出した。
にのまえは固いベッドの端でいやいやと首を横に振った。
「にーこないだ『わるいこと』したよ。だからだめ。」
「この前は私たちが悪かったの。だから二位が怒っただけなのよ。今度は大丈夫。」
「ほんと?でもにーまたやるゆーの。」
にのまえが小さく呟いた言葉に、女性研究員は軽く身震いした。あの光景はそう簡単に忘れられない。
前回の実験で二位に麻酔をかけ、かなり高電圧の電気ショックを与えた。
しかし麻酔が不足していたためか、電気ショックで目覚めてしまった二位はふらふらとしながらも特殊能力の重力制御を巧みに操って拘束を外し、機器類を全てガラスへ叩きつけたのだ。
強化ガラスだったため実験室の外で見ていた者は無事だったが…中でモニターしていた研究員は機器の破片を強制インプラントされたり、千切れたコードから漏れる電気に触れて昏倒したりと、惨憺たる様相を極めた。
その中でよろめき立つ二位の蜜色の目は、明らかな敵意を発していた。
「こわいよ。」
ベッドの端に座らされていたにのまえはいつの間にかずりずりと後ろへ下がってうつ伏せに丸くなり、ヘッドホンをかけた頭をぶかぶかの拘束衣で隠れた手で覆っていた。
その様子は姿に似合った怯えた幼児そのもので、女性研究員はふと微笑を浮かべた。
にのまえがまだ048と番号で呼ばれていた頃から、彼女はにのまえの担当だった。
担当したこの個体が大化けするとはつゆも知らず、定期的なチェックをし、実験が痛いと泣けばなぐさめ、耳がないのが嫌だとむくれる彼に耳の部分が隠れるようヘッドホンを与えた。
パチンとスピーカーの入る音がして、天井から声が降ってきた。
「一の準備はまだかい?」
睡眠誘導剤は先の食事に混ぜてあった。
そろそろにのまえが眠ってしまう。
***
あれだけの惨事があったというのに、実験室のガラス張りの窓には研究者がひしめいている。
彼らの視線の先はベッドに横たわったにのまえ…いや、二位。
眠りに落ちる直前、思考のぼんやりし始めたにのまえを騙すようにして二位を引き出した。
そしてすぐに麻酔技師が麻酔をかけ、他の研究員が完全に拘束する。
「あの幼児が一瞬でこんなに成長するなんてね。やっぱりポフ種には可能性があるよ。」
にのまえを担当する女性研究員が実験室を出ると、二位を眺めながら同期の研究員が話しかけてきた。彼は心理系を学んだ、にのまえと二位のメンタル面のサポーターだ。
かつて女性研究員が一人で担当していた048。
しかし今の『にのまえ』には多くの者が関わっていた。
栄養管理、各種技師、メンタルサポーター、遊び相手までもが与えられている。
「可能性があっても一はそれを拒んでいるわ。不自然だって、心のどこかで思っているんじゃない?」
「今は戸惑っているだけだと僕は思うね。どっちにしろ二位の方に一の意識が統合されてしまったら覚えているかどうかも怪しいさ。」
「あんた、女性の心理については全く講義を受けなかったみたいね。」
「女心は勉強するだけ無駄だって教授が。」
男性研究員はわざとらしく肩をすくめてみせた。
***
「ところで今日の実験内容って知ってる?」
「B班が作ったとかいう新しい固定剤の投与実験でしょ?」
「ついでに催眠誘導も併用するらしい。あの衆人環視の中に入って行くのは気が引けるね。」
おどけた様子の彼に、彼女は眉をしかめた。
「冗談じゃないのよ?この前の、忘れたわけじゃないでしょ?」
「そりゃあね。でもあの後の二位の精神面は多少安定してる。一暴れしてすっきりしたんじゃないかな。」
「だから冗談じゃないって言ってるの。さっき一が喋ってたのきちんと聞いてたわけ?!」
問い詰める女性研究員の剣幕に男性研究員はたじたじといった様子で視線を逸らし、時計を見上げた。
二位が完全拘束されてから約二十分。
麻酔はすっかり効いているはずだ。
「そろそろ呼ばれるかな。じゃ、また後で。」
男性研究員はそう言うと、防音・強化ガラス完備の実験室へ入っていった。
新しく入った彼を、強化ガラス越しにいくつもの視線が追いかける。
「一も二位も、見世物でも実験動物でもないのに…。」
そう呟いてから、彼女はここがポフ種生産施設だということを思い出して深くため息を吐いた。
今も工場の方では従来型のポフが生産されているのだ。
***
にー、だめ。
いたいのやだけどねーたんもにーたんもおーたんもだいじ。
いや。
いや。
いや。
***
固定剤を投与された二位に異変が現れたのは、催眠誘導の最中だった。
麻酔ガスのマスクを付けた下、苦しげな表情で拘束された首をゆるゆると横に振り、何かを否定しようとしている。
相変わらず穏やかな声で二位の耳元に語りかけながら、男性研究員は麻酔の濃度を上げるように手で指示を出した。
麻酔技師が頷くのが目に入ったと思った瞬間、男性研究員は宙を舞っていた。
激しく壁に叩きつけられる。
「…ぅ…」
薄く目を開いた二位が小さくかすれた声を漏らした。
麻酔技師は急いでガス濃度を全開にした。
二位は一旦目を閉じたかのように見えた。しかし。
次の瞬間、麻酔ガスのボンベが技師を巻き込んで爆発した。
その爆発の破片と炎は二位に届く前に全て床に叩き落される。
拘束具が蛇のようにうねって引きちぎられる。
床に降り立った二位の紫色の髪が炎の照り返しで輝いて見えた。
***
二位は周囲をゆっくり見回す。
頭痛がするのは麻酔のせいだと見当をつける。
前回は機械がやたらと多かったからぶつけてやった。しかし今回は。
研究者側も馬鹿ではないと見えて、最低限の機材しか入れていない。
硬い箱でも無理だった前面のガラスを、生き物の柔らかい体で壊すのは無理があるだろう。
そう判断を下した二位は、あるとき誰かが本を広げ冗談交じりににのまえに教えた言葉を思い出していた。
おそらくその男は、にのまえの知能では理解出来ないとでも思っていたのだろう。
『重力をずっとずっと凝縮するとね、ブラックホールになるんだ。ほら、この空のゴミ箱さ。』
確かににのまえは「理解」はしなかった。しかし記憶の隅にその知識は残った。
二位は右手の内にごく小さな重力場を作り出した。
ガラスの向こう側にいる研究者たちは、二位の手が歪んで見えるのをどう取ったのだろうか。
何か書類に書き込んでいる者がいるのを見て、二位は出ない声でせせら笑った。
小さな重力場は次第に密度を高めていく。
頭痛が増すのを感じたが、二位はそれを続けた。
強く、強く。
一度だけにのまえの強烈な意識が脳を刺したが、それ一回きりだった。
上体を屈めて金属の破片を拾うと無造作に重力場に投げ入れる。
かなり近付いたところで金属片がスッと吸い込まれる感触があった。
何となく息苦しいのは重力場が室内の空気をも奪っているからだろうか。実際爆発の際の炎も弱まっている。
―そろそろこちらの限界か。
まだ重力場の密度を上げながら、二位は右手を前へ差し伸べた。
***
二位の手を離れた円状の重力場は強化ガラスに触れた。
勘の良い研究者は他の者への警告もそこそこにその場を離れ、屋外まで逃げ出していた。
銃弾をも通さず、かなりの水圧にも負けないはずの強化ガラスにひびが入り、破片が重力場に吸い込まれていく。
その場にいて意識のあった全員が強い風を感じた。
同時に己の体が二位の手から離れた円状の物に引き寄せられるのも。
重力場に逆らおうと狂乱する研究者たちを二位は冷めた蜜色の瞳で見詰めていた。
まずは紙の乱舞。
続いて強化ガラスの残った部分が大きく欠けて姿を消す。
室内の固定されていない機材。
二位のすぐ横を走り抜けた火だるまの物体が二位の長く伸びた髪を少し焦がした。
そしてついに脱落者が出始めた。
悲鳴を上げながら重力場に引きずられていく、白衣に包まれた体。
―頭痛がする。
眉をしかめながらもまだ重力場を保ち続ける二位は、この場の全てを消すつもりだった。
またひとつ、誰かの体が悲鳴と共に重力場に飲み込まれた。
―消えろ。
だめ。
―全て。
いや。
―何一つ残すものか。
…それのあとどしたいの?にー?
***
二位が立っていた場所には、にのまえが倒れていた。
拘束服から出もしない小さな手がぴくりと動いて、にのまえは目を開いた。
よいしょ、と声をかけて起き上がる。
「にー…。」
実験室はいっそすがすがしいほどに何も残っていなかった。機械も、据え付けたベッドも、何もかも。
にのまえはコシコシと拘束服で目をこすって、もう一度周囲を見回した。
「にー、これしたかった?」
実験室を出て、はだしで研究室まで歩いて中を覗く。
泥棒にでも荒らされたかのように椅子が倒れ書類が散乱しているだけで、誰かがいるということはなかった。
次に、何度か連れて行ってもらった工場の方へ歩いてみる。
ラインはストップし、見るたびにひしめいていた生き物の気配は微塵も感じられなかった。
「にのまえここだよ?」
誰も応えない。
二位すらも答えてくれなかった。
「…にのまえ、ひとりなった。」
目を見開いたまま虚ろに呟いて、がらんとした工場のラインを眺める。
「…にーたんもおーたんも、ね、ねーたんも…にの、にのまえこわくなったの…。」
その瞳孔のない蜜色の瞳にゆっくりと涙がせり上がって来る。
言葉の端が時折頼りなく震えた。
現実を言葉にするたびに感情が高まり、ついににのまえはひとりで喋りながらしゃくりあげ始めた。
「だ、だから…ひっく、にのまえ、ひとりして…っう、みんないないの…よぅ。」
そしてぺたんと座り込むと、にのまえは目からぽろぽろと涙を落として大声で泣き出した。
泣き声はひとりには広すぎる場所に反響し、ただ虚しく消えていった。
***
ぜろよんはちはひとり。
にーがでてきたらにのまえはにのまえとにーふたりなったよ。
にーとにのまえのまわりひといっぱいだったの。
でもねいまは…。
<END>
●にのまえの過去話。廃工場跡が廃工場跡になった由縁でもあったり。
このずっと後に瞬影が住み着くようになりました。
妙に暗い上に読み辛い重い文章ですが、別ブログではよくこんなの書いてます。
とはいえ、ここしばらくわが子と関係を持ってくださった方を強制的に駄文に放り込んで晒すという無慈悲な行いをしていたので、以前より危機感や葛藤はありません。
…堕落するとこうなるんです。
擬人化なのはいうまでもありません。
設定上は「一」と書きますが、文中での基本表記は「にのまえ」です。
実験とかあります。ちょっくら(?)人死にが出てます。暗いです。読みにくいです。
覚悟をお決めになりましたら…どうぞ。
無理そうなら回れ進め。
<<ひとり・ふたり・いっぱい…ひとり>>
にのまえ。
にのまえはにのまえになるまでぜろよんはちだったの。
にのまえがにのまえになったのはにーがでてきたからなんだって。
にーがいなかったらにのまえはまだぜろよんはち。
***
「一(にのまえ)、二位(にい)を出してちょうだい。」
実験室で若い女性の研究員が手鏡を差し出した。
にのまえは固いベッドの端でいやいやと首を横に振った。
「にーこないだ『わるいこと』したよ。だからだめ。」
「この前は私たちが悪かったの。だから二位が怒っただけなのよ。今度は大丈夫。」
「ほんと?でもにーまたやるゆーの。」
にのまえが小さく呟いた言葉に、女性研究員は軽く身震いした。あの光景はそう簡単に忘れられない。
前回の実験で二位に麻酔をかけ、かなり高電圧の電気ショックを与えた。
しかし麻酔が不足していたためか、電気ショックで目覚めてしまった二位はふらふらとしながらも特殊能力の重力制御を巧みに操って拘束を外し、機器類を全てガラスへ叩きつけたのだ。
強化ガラスだったため実験室の外で見ていた者は無事だったが…中でモニターしていた研究員は機器の破片を強制インプラントされたり、千切れたコードから漏れる電気に触れて昏倒したりと、惨憺たる様相を極めた。
その中でよろめき立つ二位の蜜色の目は、明らかな敵意を発していた。
「こわいよ。」
ベッドの端に座らされていたにのまえはいつの間にかずりずりと後ろへ下がってうつ伏せに丸くなり、ヘッドホンをかけた頭をぶかぶかの拘束衣で隠れた手で覆っていた。
その様子は姿に似合った怯えた幼児そのもので、女性研究員はふと微笑を浮かべた。
にのまえがまだ048と番号で呼ばれていた頃から、彼女はにのまえの担当だった。
担当したこの個体が大化けするとはつゆも知らず、定期的なチェックをし、実験が痛いと泣けばなぐさめ、耳がないのが嫌だとむくれる彼に耳の部分が隠れるようヘッドホンを与えた。
パチンとスピーカーの入る音がして、天井から声が降ってきた。
「一の準備はまだかい?」
睡眠誘導剤は先の食事に混ぜてあった。
そろそろにのまえが眠ってしまう。
***
あれだけの惨事があったというのに、実験室のガラス張りの窓には研究者がひしめいている。
彼らの視線の先はベッドに横たわったにのまえ…いや、二位。
眠りに落ちる直前、思考のぼんやりし始めたにのまえを騙すようにして二位を引き出した。
そしてすぐに麻酔技師が麻酔をかけ、他の研究員が完全に拘束する。
「あの幼児が一瞬でこんなに成長するなんてね。やっぱりポフ種には可能性があるよ。」
にのまえを担当する女性研究員が実験室を出ると、二位を眺めながら同期の研究員が話しかけてきた。彼は心理系を学んだ、にのまえと二位のメンタル面のサポーターだ。
かつて女性研究員が一人で担当していた048。
しかし今の『にのまえ』には多くの者が関わっていた。
栄養管理、各種技師、メンタルサポーター、遊び相手までもが与えられている。
「可能性があっても一はそれを拒んでいるわ。不自然だって、心のどこかで思っているんじゃない?」
「今は戸惑っているだけだと僕は思うね。どっちにしろ二位の方に一の意識が統合されてしまったら覚えているかどうかも怪しいさ。」
「あんた、女性の心理については全く講義を受けなかったみたいね。」
「女心は勉強するだけ無駄だって教授が。」
男性研究員はわざとらしく肩をすくめてみせた。
***
「ところで今日の実験内容って知ってる?」
「B班が作ったとかいう新しい固定剤の投与実験でしょ?」
「ついでに催眠誘導も併用するらしい。あの衆人環視の中に入って行くのは気が引けるね。」
おどけた様子の彼に、彼女は眉をしかめた。
「冗談じゃないのよ?この前の、忘れたわけじゃないでしょ?」
「そりゃあね。でもあの後の二位の精神面は多少安定してる。一暴れしてすっきりしたんじゃないかな。」
「だから冗談じゃないって言ってるの。さっき一が喋ってたのきちんと聞いてたわけ?!」
問い詰める女性研究員の剣幕に男性研究員はたじたじといった様子で視線を逸らし、時計を見上げた。
二位が完全拘束されてから約二十分。
麻酔はすっかり効いているはずだ。
「そろそろ呼ばれるかな。じゃ、また後で。」
男性研究員はそう言うと、防音・強化ガラス完備の実験室へ入っていった。
新しく入った彼を、強化ガラス越しにいくつもの視線が追いかける。
「一も二位も、見世物でも実験動物でもないのに…。」
そう呟いてから、彼女はここがポフ種生産施設だということを思い出して深くため息を吐いた。
今も工場の方では従来型のポフが生産されているのだ。
***
にー、だめ。
いたいのやだけどねーたんもにーたんもおーたんもだいじ。
いや。
いや。
いや。
***
固定剤を投与された二位に異変が現れたのは、催眠誘導の最中だった。
麻酔ガスのマスクを付けた下、苦しげな表情で拘束された首をゆるゆると横に振り、何かを否定しようとしている。
相変わらず穏やかな声で二位の耳元に語りかけながら、男性研究員は麻酔の濃度を上げるように手で指示を出した。
麻酔技師が頷くのが目に入ったと思った瞬間、男性研究員は宙を舞っていた。
激しく壁に叩きつけられる。
「…ぅ…」
薄く目を開いた二位が小さくかすれた声を漏らした。
麻酔技師は急いでガス濃度を全開にした。
二位は一旦目を閉じたかのように見えた。しかし。
次の瞬間、麻酔ガスのボンベが技師を巻き込んで爆発した。
その爆発の破片と炎は二位に届く前に全て床に叩き落される。
拘束具が蛇のようにうねって引きちぎられる。
床に降り立った二位の紫色の髪が炎の照り返しで輝いて見えた。
***
二位は周囲をゆっくり見回す。
頭痛がするのは麻酔のせいだと見当をつける。
前回は機械がやたらと多かったからぶつけてやった。しかし今回は。
研究者側も馬鹿ではないと見えて、最低限の機材しか入れていない。
硬い箱でも無理だった前面のガラスを、生き物の柔らかい体で壊すのは無理があるだろう。
そう判断を下した二位は、あるとき誰かが本を広げ冗談交じりににのまえに教えた言葉を思い出していた。
おそらくその男は、にのまえの知能では理解出来ないとでも思っていたのだろう。
『重力をずっとずっと凝縮するとね、ブラックホールになるんだ。ほら、この空のゴミ箱さ。』
確かににのまえは「理解」はしなかった。しかし記憶の隅にその知識は残った。
二位は右手の内にごく小さな重力場を作り出した。
ガラスの向こう側にいる研究者たちは、二位の手が歪んで見えるのをどう取ったのだろうか。
何か書類に書き込んでいる者がいるのを見て、二位は出ない声でせせら笑った。
小さな重力場は次第に密度を高めていく。
頭痛が増すのを感じたが、二位はそれを続けた。
強く、強く。
一度だけにのまえの強烈な意識が脳を刺したが、それ一回きりだった。
上体を屈めて金属の破片を拾うと無造作に重力場に投げ入れる。
かなり近付いたところで金属片がスッと吸い込まれる感触があった。
何となく息苦しいのは重力場が室内の空気をも奪っているからだろうか。実際爆発の際の炎も弱まっている。
―そろそろこちらの限界か。
まだ重力場の密度を上げながら、二位は右手を前へ差し伸べた。
***
二位の手を離れた円状の重力場は強化ガラスに触れた。
勘の良い研究者は他の者への警告もそこそこにその場を離れ、屋外まで逃げ出していた。
銃弾をも通さず、かなりの水圧にも負けないはずの強化ガラスにひびが入り、破片が重力場に吸い込まれていく。
その場にいて意識のあった全員が強い風を感じた。
同時に己の体が二位の手から離れた円状の物に引き寄せられるのも。
重力場に逆らおうと狂乱する研究者たちを二位は冷めた蜜色の瞳で見詰めていた。
まずは紙の乱舞。
続いて強化ガラスの残った部分が大きく欠けて姿を消す。
室内の固定されていない機材。
二位のすぐ横を走り抜けた火だるまの物体が二位の長く伸びた髪を少し焦がした。
そしてついに脱落者が出始めた。
悲鳴を上げながら重力場に引きずられていく、白衣に包まれた体。
―頭痛がする。
眉をしかめながらもまだ重力場を保ち続ける二位は、この場の全てを消すつもりだった。
またひとつ、誰かの体が悲鳴と共に重力場に飲み込まれた。
―消えろ。
だめ。
―全て。
いや。
―何一つ残すものか。
…それのあとどしたいの?にー?
***
二位が立っていた場所には、にのまえが倒れていた。
拘束服から出もしない小さな手がぴくりと動いて、にのまえは目を開いた。
よいしょ、と声をかけて起き上がる。
「にー…。」
実験室はいっそすがすがしいほどに何も残っていなかった。機械も、据え付けたベッドも、何もかも。
にのまえはコシコシと拘束服で目をこすって、もう一度周囲を見回した。
「にー、これしたかった?」
実験室を出て、はだしで研究室まで歩いて中を覗く。
泥棒にでも荒らされたかのように椅子が倒れ書類が散乱しているだけで、誰かがいるということはなかった。
次に、何度か連れて行ってもらった工場の方へ歩いてみる。
ラインはストップし、見るたびにひしめいていた生き物の気配は微塵も感じられなかった。
「にのまえここだよ?」
誰も応えない。
二位すらも答えてくれなかった。
「…にのまえ、ひとりなった。」
目を見開いたまま虚ろに呟いて、がらんとした工場のラインを眺める。
「…にーたんもおーたんも、ね、ねーたんも…にの、にのまえこわくなったの…。」
その瞳孔のない蜜色の瞳にゆっくりと涙がせり上がって来る。
言葉の端が時折頼りなく震えた。
現実を言葉にするたびに感情が高まり、ついににのまえはひとりで喋りながらしゃくりあげ始めた。
「だ、だから…ひっく、にのまえ、ひとりして…っう、みんないないの…よぅ。」
そしてぺたんと座り込むと、にのまえは目からぽろぽろと涙を落として大声で泣き出した。
泣き声はひとりには広すぎる場所に反響し、ただ虚しく消えていった。
***
ぜろよんはちはひとり。
にーがでてきたらにのまえはにのまえとにーふたりなったよ。
にーとにのまえのまわりひといっぱいだったの。
でもねいまは…。
<END>
●にのまえの過去話。廃工場跡が廃工場跡になった由縁でもあったり。
このずっと後に瞬影が住み着くようになりました。
妙に暗い上に読み辛い重い文章ですが、別ブログではよくこんなの書いてます。
2009-07-06 00:20
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いやぁ・・
ぐいぐい読んでしまいました・・・。
文才がおありなんですね。
・・・いやぁ・・・
余韻が・・・・w
by xephon (2009-07-08 00:55)
よく「読みにくい」といわれる文なのですー。
読みやすい文章とはなんぞや?を探ったり放置してみたりする日々です。
どこをふくらませてどこを削ぐべきかよくわからないまま書いてます。
だめぽ。
文を書くって本当に難しい。
by ヤシロ (2009-07-08 01:32)